東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1447号 判決 1955年8月27日
主文
原判決を取り消す。
被控訴人らは控訴人に対し東京都大田区新井宿七丁目九十一番地所在木造トタン葺平家建作業所兼居宅一棟建坪十二坪(実測十五坪)及びその敷地百坪を明け渡せ。
被控訴人らは控訴人に対し昭和二十七年二月十九日以降前項建物及び土地明渡ずみまで一ケ月につき金千三百四十九円の割合の金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
本判決は控訴人において金五万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
控訴代理人は、主文第一ないし第四項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、「本件土地建物の買受代金十六万円は、控訴人が同時に訴外明坂ケイから買い受けた同人所有の建物代金十万円を合せ、昭和二十五年四月二十六日貸付にかかる金十五万円の債権(原判決事実摘示(一)(イ)の債権)及び昭和二十六年十一月一日貸付にかかる金二十二万七千三百六十円の債権(同(ロ)の債権)と対当額においてそれぞれ合意の上相殺した。」と訂正陳述した外、原判決事実摘示記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
証拠(省略)
理由
控訴人が本訴請求の原因として主張する事実関係の要旨は、被控訴人徳平は、被控訴人智徳の代理人として、昭和二十六年十一月十九日被控訴人智徳所有の東京都大田区新井宿七丁目九十一番宅地百坪、同地上に所在する家屋番号同町九十一番の二木造トタン葺平家建作業場兼居宅一棟建坪十二坪、実測建坪十五坪を代金十六万円(内訳右土地につき十万円、建物につき六万円)で売り渡し、右代金債務を被控訴人智徳に対する消費貸借債権と合意の上相殺した、被控訴人徳平、同智徳は、右同日控訴人に対し控訴人の請求次第本件土地及び建物を明け渡すことを約した、というにある。
よつて証拠を検討するに、(一)甲第一、第二号証については、不産動の表示、本文及び被控訴人智徳の署名部分の成立は被控訴人らの認めるところであり、その余の部分の成立については、原審並びに当審(第一回)証人原田千代美の証言によつてこれを認定できる。(二)甲第五、第六号証については、署名の部分の成立は被控訴人らの認めるところであり、その余の部分については前記証人原田千代美の証言によつてこれを認めることができる。(三)甲第十二号証については、担保物件目録、宛名、貼用印紙の部分を除いてはその成立に争がなく、その余の部分については当審における被控訴人徳平尋問の結果並びに原審(第一回)における原告(控訴人)本人尋問の結果によつて認めることができる。(四)甲第十三、第十四号証については、署名の部分の成立は被控訴人らの認めるところであり、その余の部分の成立については原審(第一回)の原告(控訴人)本人尋問の結果によつてこれを認めることができる。(五)甲第十五号証は、「返済期昭和二十五年九月三十日限り」とある部分を除いては原審における被告(被控訴人)徳平本人尋問の結果によつてその成立が真正であることは明らかであり、「返済期昭和二十五年九月三十日限り」とある部分の成立は原審(第一回)における控訴人(原告)本人尋問の結果によつて認めることができる。(六)甲第十六号証は、原審における被告(被控訴人)徳平本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる。(七)甲第十七号証中被控訴人徳平の署名の成立については原審における被告(被控訴人)徳平本人尋問の結果によつてこれを認め、その余の部分の成立については原審(第一回)における原告(控訴人)本人尋問の結果によつて認めることができる。(八)甲第十八号証については、原審証人明坂ケイの証言により同人の実印の押捺してあることが認められること、当審における被控訴人徳平の尋問の結果により被控訴人智徳同徳平の署名が被控訴人智徳の手筆であることが認められること、同号証についての当審における被控訴人智徳本人尋問の結果が、甲第三十七号証並びに当審(第二回)証人原田千代美の証言と対照するとき、信用できぬこと、及び当審における控訴人本人尋問の結果を綜合して、その成立の真正であることを認めることができる。(九)甲第三十四号証の一、二は、当審における控訴人本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる。以上(一)ないし(九)掲記の書証、並びに成立に争ない甲第三、第四号証、及び原審並びに当審(第一回)証人原田千代美、当審証人青柳綜一、青柳ハツミの各証言、原審(第一、二回)並びに当審における控訴人(原告)本人尋問の結果を綜合すれば、控訴人は、被控訴人徳平並びに訴外明坂ケイを連帯債務者として右両名に対し、昭和二十五年四月二十六日金十五万円、同年七月八日金五万円、同年七月二十四日金十万円を、被控訴人徳平に対し昭和二十六年一月三十一日金九万円を、それぞれ貸し渡し、控訴人の妻千代美は被控訴人徳平に対し、昭和二十五年八月十一日金三十万円、昭和二十六年一月二十四日金二万円を、それぞれ貸し渡したが、控訴人は、さらに昭和二十六年十一月一日頃被控訴人徳平、同智徳並びに明坂ケイを連帯債務者として右三名に対し被控訴人徳平が九州島原からスクラツプを買いつける資金として二十二万七千三百六十円(内二十万円は被控訴人智徳に、内二万七千三百六十円は被控訴人徳平に手交)を貸し渡したところ、右スクラツプの買付ができず、被控訴人徳平の前掲債務弁済の見込がつかなくなつたところから、被控訴人徳平は、明坂ケイと共に昭和二十六年十一月十九日控訴人を訪ね、控訴人に対し、被控訴人智徳所有の本件地土建物並びに明坂ケイ所有の東京都大田区女塚一丁目十二番地の三所在家屋番号同町一〇三番、木造瓦葺平家建住居一棟建坪十七坪五合を提供することとし、本件土地の代金は十万円、本件建物の代金は六万円、明坂ケイ所有の建物の代金は十万円として、これをそれぞれ控訴人に売り渡すこととし、これが代金は、前記昭和二十五年四月二十六日貸付にかかる金十五万円及び昭和二十六年十一月一日頃貸付にかかる金二十二万七千三百六十円の貸金債務をもつて対当額において相殺することに合意し、なお被控訴人徳平同智徳は控訴人の請求次第本件土地建物を明け渡すことを約し、甲第一、第二号証、同第五、第六号証、同第二十七号証、同第三十四号証の一、二を作成したが、被控訴人徳平は、右書類を被控訴人智徳に示したいからと言つて一旦持ち帰えつたこと、その後控訴人は、右書類中明坂ケイ所有家屋に関するもの(甲第三十四号証の一、二)は明坂ケイから、その余の書類は被控訴人智徳から控訴人の妻千代美を通じて受け取り、これを使用して、本件建物については昭和二十六年十二月四日、土地については同年十二月六日、明坂ケイ所有の建物については同年十二月十日、それぞれ所有権移転登記を了したこと、並びに前記契約に当り、被控訴人徳平は被控訴人智徳の代理人として関与した者であつて、正当に被控訴人智徳を代理する権限のあつたことを認めることができる。原審証人明坂ケイ、当審証人寺田スデの各証言原審並び当審における被控訴人(被告)寺田徳平、同寺田智徳各本人尋問の結果中有事実認定にていしよくする部分は信用しない。その他本件一切の証拠を検討しても右事実認定は変更し難い。被控訴人らは、前記金十五万円の貸金債務は昭和二十六年十一月十九日以前既に弁済ずみであると主張するけれども当裁判所の信用しない右被控訴人徳平の供述をおいて他に右事実を認めるに足る確証なく、また本件土地、建物の売渡証(甲第一、第二号証)は控訴人の偽造にかかるものであると主張しているが、一方被控訴人らと共に控訴人に対し連帯債務を負うている明坂ケイがその所有していた前掲家屋を控訴人に売り渡し、その売買代金をその債務に充当し、任意所有権移転登記手続並びにこれが明渡をすましてしまつたことが前掲甲第三十四号証の一、二並びに当審証人和田好子の証言を綜合して認められることから考えても、右文書偽造の主張は到底当裁判所の容認し難いところである。
しかして原審(第一回)における控訴人(原告)本人尋問の結果並びにこれによつて真正に成立したと認める甲第七号証の一、二、同第八号証、当審証人和田好子の証言、当審における被控訴人徳平本人尋問の結果を綜合すれば、控訴人は昭和二十七年二月八日被控訴人徳平同智徳にあて前記土地並びに建物を昭和二十七年二月十八日正午までに明け渡すことを求める書面を作成し、これを明坂ケイの養女である和田好子をして被控訴人徳平方に持参せしめたが、被控訴人徳平はこれを受け取らなかつたので、控訴人は同日右趣旨を記載した郵便はがきを被控訴人徳平、同智徳あてに発送したことが認められるから、右郵便はがきはその頃被控訴人徳平、同智徳方に到達したものと推定するのが相当である。しからば被控訴人らは前記約旨に基き控訴人に対し右期日までに本件土地建物を明け渡すべき義務あるものというべく、被控訴人両名が現に本件土地建物を占有しこれを控訴人に明け渡していないことは被控訴人らの争わないところであるから、被控訴人らは明渡期限の翌日である昭和二十七年二月十九日から右明渡ずみまで、右明渡義務の不履行によつて控訴人に対し右土地建物の賃料に相当する損害を与えているものというべきである。しかして右土地建物の相当賃料が月額金千三百四十九円であることは、成立に争のない甲第九号証によつて認められるから、被控訴人両名は控訴人に対し昭和二十七年二月十九日以降前記土地建物明渡ずみまで一ケ月につき金千三百四十九円に相当する金員を支払うべき義務あることもまた明らかである。
よつて、控訴人の本件請求を棄却した原判決を失当として取り消し、控訴人の本件請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十六条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を適用し主文のとおり判決する。